酵母メタノール誘導性遺伝子発現制御の分子機構と異種タンパク質生産

1969年に京都大学の緒方らにより世界で初めて発見されたメタノール資化性酵母(C1酵母)を主な研究対象としています。C1酵母では、メタノール培養時にメタノール代謝酵素が大量に誘導されます。メタノールによって強力に誘導されるこれらの酵素遺伝子のプロモーターを利用した異種タンパク質生産系が開発され、産業レベルでの利用も含めて世界中で汎用されています。

当研究室ではこれまでに、C1酵母の異種タンパク質生産系を用いて、さまざまな有用タンパク質の生産を行ってきました。より効率なタンパク質生産系の開発には、セントラルドグマ(DNA→mRNA→タンパク質)だけでなく、ポストセントラルドグマ(タンパク質のフォールディングや修飾、分解、分泌)に沿ってC1酵母の代謝・細胞生理機能を理解し、それらを戦略的に活用することが極めて重要です(図2)。現在は、C1酵母における強力なメタノール誘導性遺伝子発現制御の分子機構について、転写制御因子の機能解析、メタノール濃度に依存したシグナル伝達経路の解明、大量に合成されるmRNAの細胞内動態制御の解明などに取り組んでいます。また、C1酵母を宿主とする異種タンパク質生産に関わるタンパク質合成・分解制御、オルガネラ膜動態制御などの分子機構解明と、新規宿主細胞の開発に関する研究も進めています。分子・化学・細胞・代謝をキーワードとした分子細胞生物学研究によって得られた知見に立脚し、異種タンパク質生産など幅広い応用展開が期待される領域において、新しい制御発酵学分野の開拓を目指しています。

図2.分子細胞生物学を軸とした制御発酵学

【この項目に関する総説】
1) 由里本博也ら. 化学と生物, 62:447-454 (2024).
2) 由里本博也, 阪井康能. 環境バイオテクノロジー学会誌, 24: 53-58 (2024).
3) 由里本博也, 阪井康能. 生物工学, 101:226-229 (2023).
4) Ohsawa S, et al. Front. Cell Dev. Biol., 10:887806 (2022).
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6) Yurimoto H, Sakai Y. Curr. Issues Mol. Biol., 33:197-210 (2019).
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