葉圏C1微生物-植物間相互作用原理の解明と作物増収

地球上の葉の表面積は表裏合わせて地球の表面積の2倍に匹敵すると見積もられ、葉面には膨大な数の微生物が棲息しています。植物の葉を含む地上部は葉圏(Phyllosphere)と呼ばれ、微生物の生息環境として重要であるにも関わらず、土壌中の根圏(Rhizosphere)に比べて永らく看過されてきました。葉圏微生物は、土壌微生物に比べて貧栄養であり、さらに様々な環境因子が日周変動する環境に棲息していますが、植物病原菌以外の葉圏微生物については不明な点が多く残されていました。1995年には、植物細胞壁のペクチンに含まれるメチルエステル基に由来するメタノールが植物の葉から放出されることが報告されました。さらに今世紀に入り、非培養解析技術の進展により葉圏菌叢の理解が深化し、メタノール資化性属細菌(C1細菌)が葉圏細菌叢の数十パーセントにも達する優占種であること、C1細菌が生長促進など植物に対して正の効果をもつことが明らかになってきました。

当研究室では、C1細菌の葉圏への定着と優占化に必要な細胞生理機能の解明を行うとともに、C1細菌をバイオスティミュラントとする作物増収技術の開発を進めています。これまでに、C1細菌のビタミン要求性、ストレス応答制御系、メタノール走化性などが葉圏での定着・増殖に重要な役割を果たすことを明らかにしてきました。また、C1細菌の葉面散布による米増収技術の開発にも成功しており、C1細菌の葉圏での細胞生理機能や植物の応答を含めた作物増収メカニズムの解明に取り組んでいます(図3)。さらに、C1酵母も葉圏で増殖可能であることから、当研究室ではC1酵母の葉圏での生存戦略機構についても明らかにしてきました。現在は、C1酵母による植物生長促進効果にも注目した研究も進めています。

図3.葉圏C1微生物-植物間相互作用原理の解明とその活用

【この項目に関する総説】
1) Yurimoto H. Plant Biotechnol. 42:193-201 (2025).
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5) 白石晃將, 阪井康能. 化学と生物, 60:2-4 (2022).
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